教えてください! 子ども・若者 支援の現場 参加団体インタビュー

2022年9月30日(金)

大人だって教えてもらう。世代を超え互いに習い合う学習支援の形

第2回

NPO任意団体 "がきんちょ"ファミリー

代表 大山光子さん

大人だって教えてもらう。世代を超え互いに習い合う学習支援の形

2022年9月30日(金)

Q.

"がきんちょ"ファミリーについて教えていただけますしょうか。

大山さん小学生ジュニアリーダーを卒業する中学生たちの発案で2003年に始めた 「"がきんちょ"fightクラブ」というサークル活動が原点です。最初は私の自宅に子どもたちが集まっていたんですが、後に足立区の地域学習センターを利用し、「青少年の居場所」と名付けて、困難を抱える家庭の子や居場所がないと感じている子などが孤立しないよう、集まって遊べる場をつくるようになりました。

Q.

2017年からは「"がきんちょ"地域食堂」を運営されていますが、どのような経緯で始まったのですか。

大山さん「青少年の居場所」で子どもたちと関わるうちに、家であまりご飯を食べられていない子が非常に多いことがわかりました。もう15年ほど前の話ですが、ボランティアで参加してくれていた地域の大人たちが、家から持ってきたお昼ご飯を食べていたら、子どもたちがそれをうらやましそうにじっと見るんです。「食べる?」と聞いたら、ものすごい勢いで食べ始めて。それから、大人たちが自分のお昼ご飯と一緒に子どもたちの分もつくってきてくれるようになりました。だんだん、食材を持ち寄って子どもも大人も一緒に料理をするようになり、みんなでつくってみんなで食べて、午後もみんなで遊ぶという、とてもいいサイクルができてきました。「子ども食堂」のブームに乗って、2017年に「"がきんちょ"地域食堂」と名付け、食堂形態での運営がスタートしました。コロナ禍に入ってからはお弁当の提供に切り替えましたが、活動は続けています。

食材のほとんどは寄付されたもの。地域でのつながりが活動を支えている

Q.

「"がきんちょ"地域食堂」の特徴を教えてください。

大山さん一般的な子ども食堂と違うのは、子どもだけでなく家族の分の食事も用意するところです。子どもだけが食堂に来てご飯を食べても「じゃあ親はどうするの?」という疑問があったし、忙しいお母さんやお父さんに少しでもゆとりをもってもらって、家族の団らんに時間を使ってほしいですから。コロナ禍でお弁当の提供になってからも、私たちが届けるのではなく取りに来てもらって、全員分を持って帰ってもらっています。取りに来た時に、何か困っていることがないかなどの確認をしています。

Q.

2021年からは学習支援の「がちゃ・スクール」もスタートしていますが、きっかけは何だったのでしょうか。

大山さんコロナ禍で、世の中から子どもたちの体験の場や出会いの場がなくなっていると感じたからです。学習支援の場があれば、今日は学校で何を勉強したか、どんなことがあったかを聞いて、ちょっとしたふれあいやおしゃべりが可能になると考えました。"がきんちょ"地域食堂には公式LINEがあって、そこで募集をかけたら、親御さんたちから「ぜひ!」という声がたくさんあがったんです。「家では宿題も勉強もなかなかやらないので、そういう場所に行かせたい」と、多くの方に申し込んでいただきました。

Q.

キッズドアさんの研修を受けてみて、どう感じましたか。

大山さん子どもの貧困問題について、ボランティアスタッフみんなで改めて共通した学びができたのはとてもありがたかったです。通り一遍の講演ではなく、実際の様々な家庭の貧困状況や、子どもにどのような影響を及ぼすのかなど、とても詳しい話を聞くことができました。私たちは現場で活動していて子どもたちの現状を知っているけれど、私たちの周りだけでなく全国で起きていることなんだと、改めてはっきりと認識できました。

Q.

「がちゃ・スクール」が始まって、お子さんや親御さんに変化はありましたか。

大山さん週に1回、1〜2時間という短時間の開講ですが、学習習慣の定着という意味では十分だと考えています。その時間が、いろいろな人とふれあっておしゃべりをして、親に話さないことまで話せるような「解放の時間」になっているようです。親御さんの方も同じかもしれません。一見すごく穏やかに見えるご家庭でも、がちゃ・スクールの迎えに来た時なんかは親子で大喧嘩が始まったりします。子どもが言うことをきかずに疲れきっている親御さんも多くて、私も相談を受けることがありますが、「それも子どもの成長だから、もう少し待てば落ち着いてくるよ」なんて話しています。

Q.

ボランティアの皆さんは、どのような形で募集してきたのでしょうか。

大山さん子どもが通っていた学校のPTAや子ども会のつながりだったり、子どもの同級生のつながりだったりと様々です。竹ノ塚に拠点を置くようになってからは、この地域の人が「手伝わせて」と言って来てくれたりもしました。ボランティアは楽しくなければ続かないので、楽しみながら「やれる事をやれる時に」の精神でお願いしています。それがボランティアの鉄則ですね。

調理を担当するボランティアのみなさんと

Q.

ボランティアに興味があるけどなかなか一歩を踏み出せないという人に声をかけるとしたら、何を伝えたいですか。

大山さん「社会貢献をしよう」と堅苦しく考えるよりは、「いろんなところに行っていろんな人に出会ってみよう」「自分の知らない世界を見てみよう」と考えた方がおもしろいと思います。空いている時間だけでかまわないので、とにかく楽しもうという気持ちでやってみるのが一番いいのではないでしょうか。

Q.

大山さんがこれからやってみたいことはありますか。

大山さん地域のまちづくりですね。ひとつふたつ課題を解決しただけではどうにもならないので、大勢で楽しみながらまちづくりをしていきたいと思っています。人は、自分の好きなことを仕事にできれば一番いいじゃないですか。好きな仕事でお給料をもらえてご飯が食べられれば、もっと生活が充実しますよね。今の社会はあまりそのように回っていないんです。だからこそ子どもたち、若い人たちは自分が何をやりたいのかをもっと主張すべきだし、それを可能にするまちづくりを仲間たちと共にしていきたいです。そうすれば、30年先の豊かさや幸福感が変わってくるのではないかと思います。

Q.

大山さんの活動や夢を支えている原動力は何でしょうか。

大山さんきっと子どもたちの声ですね。自分の子どもではなくても、たくさんの子どもたちの声に動かされている気がします。私は長年、介護も、地域活動も、役所の下でボランティアもしてきました。いろんなところを見てきた中で、子どもたちの声は大人の世界から全く切り離されていると感じました。それっておかしいですよね。だから子どもたちからも「大人が言わないでどうすんだよ」って言われるんです。「そうだよね、大人はそのためにいるんだよね、大人がめげちゃいけないよね。じゃないと社会は変わってかないもんね」と思わされます。

Q.

困難家庭や子どもの支援は、ケースワーカーなど特別な資格を持っていないとできないという先入観をもっている人もいますが、どう思われますか。

大山さん困難家庭の方々から、「行政の人は私たちの状況をわかってくれない」と言われることがあります。資格があって"業務"として困難家庭と関わる人は、まず「自分の業務の範囲内かどうか」という判断が必要です。どの家庭もそれぞれ事情が違うので、業務の枠の中に入れられてしまうことで「冷たい対応をされた」という印象を受けるようです。私たちはただ話を聞くことしかできませんが、話すだけ話してさっぱりした、それだけで頑張れるという人もいます。もちろん、何らかの手続きをするなら資格のある方々にお世話になる必要があるので、そのように役割分担できればいいと思います。

Q.

これから学習支援を行いたい、あるいは既にやっているけれどもう少しステップアップしたいという人や団体に向けて、お伝えしたいことをお聞かせください。

大山さん私は「学習支援」という言葉だけにとらわれて、ただ子どもたちの知的レベルをあげることだけを考えるのは、今の時代には適さないと思っています。学校で全員にタブレットが配布される現在では、親よりも子どもの方が早く情報を手に入れて、新しいことをどんどん覚えてきます。知識を取り入れること自体は簡単になっているので、「学習支援」と名乗ってはいても、私はやはり出会いやつながりを大切にしたいと思っています。怒られたり叱られたりする経験も大切ですし、自分と他の人たちは違ってていいのだということを学ぶ場所として、学習支援の場が必要なのだと思っています。「がちゃ・スクール」でも、指導者がいて習う人がいるという関係性ではなく、子どもたちが自分の得意なことをお互いに教え合うような関わり方をしています。大人も子どもから習うことがたくさんあるんですよ。私も高校生からLINEのアカウント乗っ取りだとか、詐欺のメールだとか、気を付けなければいけないことをたくさん教わりました。世代を超えてお互いに習い合うという形の「学習支援」が求められる時代なのではないでしょうか。

Q.

最後にHOPEに期待することを教えてください。

大山さん働くということと、お金の流れについて、子どもたちに教えられる機会をつくっていただきたいです。いずれは学校でもそういう教育が始まるのでしょうけど、早い時期に子どもたちにそういうことを学んでもらえる場ができればいいなと思っています。

取材担当の真島・杉山と共に(中央が大山さん)

タイトルのお写真:お話をうかかがった大山代表