教えてください! 子ども・若者 支援の現場 参加団体インタビュー

2024年6月3日(月)

学力を上げるよりも子どもたちの居場所になることが大切
子どもたちの自己肯定感を高め生きる力を育む学習支援活動

第3回

NPO法人みなと子ども食堂

理事長 福崎聖子さん・理事 西川美弥子さん

学力を上げるよりも子どもたちの居場所になることが大切
子どもたちの自己肯定感を高め生きる力を育む学習支援活動

2024年6月3日(月)

Q.

まずはみなと子ども食堂について教えてください。

福崎聖子さん(以下、福崎さん)みなと子ども食堂は、2016年に共働き家庭などの子どもの孤食を解消するための居場所づくりとしてはじまりました。コロナ禍では、衛生面を考慮して食堂ではなくフードパントリーという食材を配布する活動をしていたのですが、お困りの家庭が目に見えて増えてきました。港区と聞くと華やかなイメージがあるかもしれませんが、経済的支援を受けている子どもの数は全国平均と同じです。現在は、経済的に苦しい1人親、シングルマザーを支援する方向に活動が切り替わってきています。また、現在は、フードパントリーも継続しつつ、フードドライブやお弁当の配布、食堂の再開もしています。

私は20年以上弁護士をしているのですが、子どものいる方の離婚事件にも多く関わってきったので、子どもの食堂とはご縁があると感じて理事長を努めています。

Q.

2022年12月にスタートされた「学習支援MKG(以下、MKG)」を始めたきっかけを教えてください。

福崎さんコロナ禍以前から食堂で、20〜30世帯のお子さんを対象に3人くらいのボランティアで勉強をみていました。ただ、その頃は遊びや食事の延長線上に勉強があるという感じでした。経済的に苦しいご家庭の多くは、お子さんを塾に通わせることも家庭で親が勉強をみるのも難しい状況にあります。経済格差=教育格差という問題意識から、本格的に学習支援に取り組むことにしました。そんなときに声をかけたのが、現在、MKGで運営マネージャーを務めていただいている西川さん。フードバンクにお手伝いに来ていただいていたのですが、子どもの教育に興味を持っているのを知っていたので、思い切ってお願いしました。

みなとこども食堂 理事長 福崎聖子さん

西川美弥子さん(以下、西川さん)子どもが生まれたことをきっかけに教育、特にオルタナティブ教育について興味を持ち勉強しました。知れば知るほど素晴らしいと思ったのですが、とてもお金がかるんです。金銭的な余裕があるかどうかで、受けられる教育の質が変わってきてしまうことがわかったときはショックでした。自分にできることは何かないか、10年くらいモヤモヤを抱えていたところに福崎さんからお話をいただきました。学習支援の経験はなかったのですが、長年何かしたいと思っていたので、喜んで引き受けました。

Q.

研修を受けてMKGを立ち上げるまでに、西川さんにはさまざま苦労があったと思います。これまでの活動で大切にしてきたことや、学習支援活動ならではの難しい点などがあれば教えてください。

西川さん立ち上げ当初から大切にしているのは「参加している子どもたちの自己肯定感を高める機会にすること」です。そのために、子どもたちはもちろんボランティアの方々も安心して過ごせる場づくりを心掛けています。そのときに重要になってくるのが、子どもとボランティアさんのマッチング。相性はもちろん子どもたちの性格や気分も関わってくるので、難しく、トライ・アンド・エラーの連続です。マネージャーとして、学習の準備だけでなく、子どもとボランティアさんの様子をみることも大切にしています。マッチングがうまくいくと、本当に子どもたちはここでの時間を本当にイキイキと過ごせるんです。

MKG運営マネージャーを務める理事の西川美弥子さん

福崎さんマッチングって凄く重要ですよね。子どもにとって、優しくしてくれる大人や尊敬できる大人、大好きな大人の存在は一生の財産になります。それは、親や先生以外の人のこともあるでしょう。その人との思い出に支えられて生きられることだってあるんです。教室の雰囲気を見て、MKGは温かい気持ちになる場所だと改めて感じました。MKGを西川さんにお願いして本当に良かったと思っています。

Q.

MKGに通うことで子どもたちの様子に変化はありますか?

西川さんあります。たとえば、以前は筆記用具や宿題も持ってこない子がいました。でも、1年くらい通っているうちに、宿題を持ってくるようになり、そのうち私たちが声を掛けなくても、着席すると自分から勉強を始めるようになりました。この子に限らず、ここに来るほとんどの子どもが最初は勉強嫌いです。でも、通い続けることで学習習慣が身につきます。

また、最初は筆談でしか会話ができなかった子が、普通にボランティアさんやスタッフとコミュニケーションできるようになりました。最近では、ふざけるようにもなってきて、そういう様子が見られると嬉しいです。なかには、「今日はやらない」とわがままを言う子もいますが、それはMKGが甘えられる、安心できる場所になれている証です。子どもたちの居場所になれることで、ようやく育めることがあると思います。

Q.

学習支援活動をするうえでの課題はありますか?

西川さん週1回1時間の壁が課題です。今、九九が身に付いていない子どもが半分くらいいます。基礎となる四則演算が身に付いていないと、小学校後半から勉強についていけなくなります。そこで、ボランティアさんたちは小学校卒業までに九九を覚えられる計画を立ててくれるのですが、毎日はやれず、体調不良などでMKGをお休みすることもあり、計画通りにいかないこともあります。また、ご家庭で親御さんが「やりなさい」と言っても、なかなかやらないのが子どもです。できるようになってほしいですが、宿題を出すわけにもいかないし、親御さんのプレッシャーになってもいけないので、教え方も伝え方も匙加減が難しいです。

また、来なくなってしまう子や、手を尽くしても勉強しない子もいます。そういったことがあると、「もっと何かできたのではないか」と考えてしまいます。ただ、そこで止まっていては何も始まらないので、勉強は進まなかったけれど、ここで出会った人との交流から何かを学んでくれただろうと思うようにしています。

Q.

これまでの活動でうれしかったことはなんですか?

西川さん日比谷高校の学生ボランティアから1年間勉強を教わった子が、「自分も日比谷高校に進学して、今度は教える立場でここに戻ってきたい」と言ってくれたことです。これを聞いたときはうれしくて涙が出ました。教わる立場から教える立場へ、そういうサイクルがつくれたらいいなと思います。

福崎さんここに戻ってくることに限らず、自分がやってもらったように、誰かに何かしてあげたいという気持ちが育ってくれる、そういう循環を生み出せたら何よりの喜びですよね。



子どもたちを送り出した後は、学習内容や子どもの様子を記録し、全員で共有して次回の学習会に引き継ぐ

西川さん他にもいい循環は生まれています。たとえば、高校生ボランティアが子どもに厳しいことを言いうときがあるのですが、実体験を交えつつ話してくれるので、年齢が近いこともあり子どもも素直に話を聞きます。一方で、高校生ボランティアにも将来への不安や悩みがあり、大人のスタッフが話を聞くことがあるんです。小学生が高校生からアドバイスをもらい、その高校生の相談を大人のスタッフが聞く、勉強を超えたつながりの循環が生まれています。さらに、高校生たちはボランティアが途切れることがないように、自主的に同じ学校の後輩にMKGの活動の引継ぎも行ってくれています。本当にありがたいです。

Q.

学習支援活動を始めたいと思っている人や団体にメッセージをお願いいたします。

西川さん学習支援できることは、自分から学べる子を育てることです。私はよく子どもたちに「できない、知らないって胸を張って言うんだよ」と伝えています。学校だと、先生から「昨日教えたのに…」や友達から「そんなことも知らないの」と言われてしまうので、なかなか言えないと思います。でも、言葉にして認識することで、知らないことを聞けるようになり、ここぞというときに踏ん張れる力が身につきます。また、学習効率が悪くても、やる気がなくても、やるように声掛けをしています。それは「人生、嫌でもやらなきゃいけないことはある」ということを教えておきたいからです。「踏ん張れる力」「自分でできる力」は中学や高校、大人になったときの生きる力になります。学習支援に興味がある方、そこをめざして一緒に頑張っていきましょう。

Q.

最後に私たちHOPEとみなさんの活動をどのように高めていったらいいでしょうか。

西川さん一時的な盛り上がりではなく、継続的にサポートしていただけているのでとてもありがたいです。サポートがあり続けると思えるだけで、精神的に楽なので、ぜひ長くサポートをしていただきたいです。

福崎さん経済格差によって、受けられる教育の質やレベルはどんどん広がってきています。学習支援は、学力を上げたり勉強を教える場というよりも、西川さんのお話しにあったように心を育て生きていく力を養う場です。折れない心や嫌なことを乗り越える力は、大人への相談や仲間をつくることで育むことができます。学習支援は、食事以外の場で子どもたちと関わりたいと思っている方にとって入りやすい活動なので、ぜひ参加してみてください。また、興味はあっても、仕事の都合で継続的にボランティアをするのが難しい社会人の方もいるでしょう。働くことやお金に興味がある子どももいるので、労働組合の人に子どもたちが話を聞く機会をつくってもいいかもしれませんね。

子どもは、大人に見ていてほしいんです。隣で見てあげる、支えてあげる場が増えてほしいと思います。そんな場づくりの支えになるのがHOPEさんです。そういう意味でも本当に感謝しています。今後とも継続的なご支援をよろしくお願いいたします。

学習支援MKGのみなさん

タイトルのお写真:マンツーマンで学習をみる。高校生もボランティアに来てくれる